少子高齢化によって、「将来、年金はもらえなくなるのでは?」、もしくは「将来、年金は減らされて少ししかもらえなくなるのか?」と不安と思わてれいる方が多いです。
これを読むことで、
- 現在(令和5年度)の年金額
- 将来年金が減る(目減りする)理由
- 今後の対策方法
がわかります。
結論から申し上げると年金は破綻はしないが「目減り」します。
年金は現役世代から受給世代への賦課方式(仕送り)です。仮に高齢者に支払う年金財源が無くなっても、現役世代がいる限り、年金額は別として仕送りは続けられるため、無くなることはないが目減りします。
令和5年度年金支給額
令和5年6月15日に、令和5年度の年金が支給開始される。年金額は、老齢基礎年金(満額)で、これから年金を新たにもらう方(新規裁定者:67歳まで)で、月額6万6,250円、すでに年金をもらっている方(既裁定者:68歳以上)で、月額6万6,050円となります。自営業世帯で月約12万円、会社員世帯(モデル世帯)で月約22万円である。
これまで年金をもらっていた方は、「増えてる!よかった。」と思われるだろう。
確かに、令和4年度の支給額より、老齢基礎年金は、新規裁定者は月額1,434円、既裁定者は月額2,600円増えている。
新規裁定者と既裁定者とは
新規裁定者とは65歳未満の受給権者のことで、既裁定者とは65歳以上の受給権者のことをいいますが、新規裁定者の年金額の指標となる可処分所得スライドは、賃金の伸びの実績が出るのが2年遅れとなるため、また、賃金の伸び率を平準化するために3年間の平均をとることになっているために、実際には67歳までの受給権者については可処分所得スライドによるものとし、68歳以後の受給権者については物価スライドによるものとなります。
【出典】「年金制度改正の解説」(2004年10月刊)社会保険研究所
しかし、物価(消費者物価指数)(*1)がそれ以上に上昇しているため生活は厳しくなっている。
(*1)令和5年度(2023年度)の平均消費者物価指数については、総合指数は2020年を100として105.6で、前年比で3.2%上昇しました。(統計局ホームページより)
つまり、年金はインフレに追いついていない状況である。さらに今後、物価上昇を続ければますます離されていく。つまり「目減り」していくのである。
目減りの要因は、「マクロ経済スライド制度」である。
マクロ経済スライド制度
マクロ経済スライドとは
平成16年年金制度改正により、少子高齢化社会の到来など、年金制度自体が前提としているマクロ経済の状態が大きく変わり年金の財源問題などが出てきたことから、被保険者(加入者)の減少や平均寿命の延びなどのマクロ経済全体の変化を反映させ年金給付額を変動させる制度を創設した。ただし、この仕組みは物価の上昇(デフレではない)を前提としている。
マクロ経済スライドとは言葉は難しいが、要するに、少子高齢化の影響を考慮し、年金制度をこれからも長期的に維持するための仕組みであり、この制度により年金制度は長期的に維持される仕組みとなっている。
平成16年度以前は、年金額は物価上昇に完全にインフレに対応していた(物価が下がったら年金額も下がる)が、平成16年度以降は、スライド調整率分の年金額の調整が行われるようになった。
*スライド調整率とは、要するに少子高齢化を数値化したものであり、毎年見直しされるが、ここ数年は0.3%程度のマイナス調整(減少)となっている。
例えば、現在の生活費月20万円で、物価上昇率1.0%プラスで、スライド調整率が0.3%の場合、年金額は毎年0.7%しか増えない。
これが続くと、
10年後:生活費 月22.1万円に対し、年金額は21.4万円となり、月0.7万円の不足
20年後:生活費 月24.4万円に対し、年金額は23万円となり、月1.4万円の不足
生活レベルは変えていないのに年々生活費の不足が生じてしまう。これが年金の価値の「目減り」である。つまり、長生きすればするほど生活が苦しくなる可能性がある。
さらに、平成30年度にはキャリーオーバー制度を導入し、デフレ期にはマクロ経済スライドは発動せず、持ち越しはしなかったが、以後は、未実施分を持ち越し(キャリーオーバー)、物価上昇期にまとめて引き下げる措置を導入した。(令和6年度はマクロ経済スライドによる調整のみ)
キャリーオーバー制度とは
平成28年に成立した「公的年金制度の持続可能性の向上を図るための国民年金法等の一部を改正する法律(平成28年法律第114号)」では、マクロ経済スライドによって前年度よりも年金の名目額を下げないという措置は維持した上で、未調整分を翌年度以降に繰り越す仕組み(キャリーオーバー制度)を導入しました。
これは、将来世代の給付水準の確保や、世代間での公平性を担保する観点から、年金額の改定に反映しきれなかったマクロ経済スライドの調整率を、翌年度以降に繰り越すこととするものです。
この年金額改定ルールの見直しは平成30年4月1日から施行され、平成30年度以降に発生したマクロ経済スライドの未調整分が繰り越しの対象となります。
賃金や物価による改定率がプラスの場合には、マクロ経済スライドによる調整および前年度までのマクロ経済スライドの未調整分による調整を行うこととなっています。このため、令和5年度の年金額改定では、マクロ経済スライドによる調整(マイナス0.3%)と、令和3年度・令和4年度のマクロ経済スライドの未調整分による調整(マイナス0.3%)が行われました。
これにより、未調整分が解消されたことから、令和6年度の年金額改定では、令和6年度のマクロ経済スライドによる調整(マイナス0.4%)のみが行われます。
*日本年金機構ホームページより
令和5年度のスライド調整率は
年金改定率を算出するにあたり、以下の2つのステップで計算される。
【ステップ1】(賃金スライドおよび物価スライド調整)
令和5年度の賃金スライド率は、+2.8%、物価スライド率は、+2.5%となった。もともと、これから年金を新たにもらう方(新規裁定者)は「賃金」、すでに年金をもらっている方(既裁定者)は「物価」を適用することとしていたが、これまでは、「賃金」は「物価」上昇より低いか、「賃金」も「物価」もマイナス(デフレ)状態であったため、どちらとも「賃金」を優先する例外規定が適用されていたが、令和5年度は初めて例外ではなくなり、これから年金を新たにもらう方は「賃金」、すでに年金をもらっている方は「物価」を適用することとなり、初めて年齢によって年金額が異なるようになった。
【ステップ1:年金改定率は、新規裁定者:2.8%・既裁定者:2.5%】
【ステップ2】(マクロ経済スライドおよびキャリーオーバー制度)
令和5年度のマクロ経済スライドのスライド調整率0.3%を差し引く。さらに物価が上昇したため、令和4年度までのキャリーオーバー分(0.3%)を同時に差し引くため、合計0.6%差し引く措置が発動する。
【ステップ2:令和5年度の年金改定率は、新規裁定者:2.2%・既裁定者:1.9%】
となった。
まとめ
公的年金については、今後、「おむすびを小さくする」ことをしなければ、行列の後ろまで「おむすび」を配れなくなる。これまでデフレ経済では、マクロ経済スライドは発動されないため、「おむすびが大きい」ことに気づいていても小さくすることができなかった。今後は、物価上昇も予想されるため少しづつ小さくしていかなければ維持していくことが難しくなる。このおむすびが「年金」です。そしてこのおむすびを小さくするのが「マクロ経済スライド」です。(衆議院議員 河野太郎公式サイトより)
つまり、少子高齢化により年金財政は厳しくなっていくことは周知の事実であり、マクロ経済スライド制度によって、将来にわたっての年金制度が維持されていくが、年金額は目減りしてことは確実である。つまり、長生き対策とインフレ対策の自助努力が必要となる。
そのため、長生き対策として最も有効なのは、公的年金を増やすことである。具体的には、少しでも長く働くことで公的年金を繰下げ受給をすることで、一生涯もらえる年金をパワーアップすることが一番シンプルな方法であると考える。また、インフレ対策としては、預貯金だけではインフレ対策としては不足している。例えば、株式や投資信託のようなある程度のリスクを取りながら老後の資産運用も必要となる。
参考記事:「公的年金の受取り方:繰下げ受給がベストチョイス」
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