2025年年金制度改正: 今後、遺族厚生年金が減るってほんと?

定年後の働き方

ご主人や奥様が万が一亡くなられた場合に、国から支払われるのが「遺族年金」である。

サラリーマン等の厚生年金に加入していた場合には、遺族厚生年金が支払われるが、この遺族厚生年金は亡くなった方が「夫」なのか「妻」かによって支払条件に大きな差がある。

その男女差を解消するよう、見直しを求める声が多く上がっていたことから、厚生労働省 年金局が議論を重ね、2024年12月に遺族年金制度の見直し案が示された。

この改正案は、現行の遺族年金の問題点であった遺族厚生年金の男女差をなくすことで、公平な現代の社会情勢にあった制度にすることを目的にしています。

ここでは、遺族厚生年金の改定案の内容について詳しく解説します。

現行の遺族厚生年金は夫が不利?

国民年金および厚生年金の被保険者が亡くなった際、亡くなった人が国民年金に加入していれば、遺族基礎年金、厚生年金に加入していれば遺族厚生年金が支給される(支給の条件あり)が、それぞれに受給要件が異なる。

遺族基礎年金が支給されるのは、「子のある配偶者」または「子」である。ここでいう「子」とは、18歳になった年度の3月31日までにある子ども、または20歳未満で障害年金の障害等級1級または2級の状態にある子どもを指す。つまり、「子」のいない配偶者には支払われない。

参考記事:「遺族年金」ってどれくらい受け取れるの: 遺族年金をわかりやすく解説します

遺族年金をわかりやすく解説します
ここでは、遺族年金は「どんな時に受け取れるのか」また、「どれくらい受け取れるのか」を解説します。万が一の時に大事な遺族の生活保障を支えてくれる国の保障です。しっかり内容を理解することで、民間の生命保険の加入の必要性を踏まえた今後のライフプランを立てましょう。

【遺族厚生年金の現行制度】
○ 20代から50代に死別した子のない配偶者に対する遺族厚生年金は、主たる生計維持者を夫と捉え、夫と死別した妻が就労し生計を立てることが困難であり、世帯の稼得能力が喪失した状態が将来にわたり続くことが見込まれるといった社会経済状況を背景に、妻に対して30歳未満の場合には有期給付、30歳以上の場合には期限の定めのない終身の給付が行われている。
○ 一方で、夫は就労して生計を立てることが可能であるという考えの下、55歳未満の夫には遺族厚生年金の受給権が発生しない。加えて、受給権取得当時の年齢が40歳以上65歳未満である中高齢の寡婦のみを対象とする加算があるなど、制度上の男女差が存在している。

出典:厚生労働省 第17回社会保障審議会年金部会

一方、「遺族厚生年金」は「子のある配偶者」「子」に加え、「子のない配偶者」にも支給されるが、性別や年齢によって要件が異なる

「子のない配偶者」の場合、夫を亡くした妻が30歳以上であれば無期限で支給されるが、妻が30歳未満の場合は5年間の有期給付となる。

妻を亡くした夫の場合、夫が55歳以上であれば60歳から支給開始となるが、55歳未満の場合は支給されない。受給権を得るまでの間にも、中高齢寡婦加算に該当する加算はありません。さらに、受給権を得ても実際に受給できるのは原則60歳からです。

これまでは一家の大黒柱は夫であり、先立たれると、専業主婦である妻の生活が困窮する可能性が高いと考えられていました。一方で、夫は就労しているため、妻を失っても生活に困らないとされてきました。

しかし、現在では女性の就業率が向上し、共働き世帯が増加しています。社会構造が大きく変化したことにより、男女差のある仕組みを見直し、より公平な制度を目指す必要に迫られています。

改正の背景

現行の公的年金制度が創設された時代は専業主婦世帯が主流だったので、夫が外で働き、妻が家庭を守るという家庭をモデルに制度が創設されました。そのため、夫に先立たれ妻が仕事に就くのは難しいと考え、妻への助成が手厚くなっています。また、30歳未満の妻は若いので仕事に就ける可能性があり、そもそも男性は働いて自ら生計を立てるのが可能であることが前提なので、遺族年金制度には男女差が生じているのです。

しかし時代は変わりました。夫婦の多くが共働き世帯となり、以前と比べて女性が働きやすい環境に変わっています。

また、社会経済状況の変化も、国が遺族厚生年金の改正を検討する要因となっています。厚生労働省によれば、40〜59歳の女性就業率は2040年(推計)時点で82.4%〜95.1%と、2023年時点の男性並みに上昇する見込みです。また、男女の賃金格差も40歳以下の若い世代ほど格差が少なくなっており、40歳以降の世代では最大で12.33ポイントと大幅に改善されています。

現代では共働き世帯数が1206万世帯なのに対し、専業主婦世帯は404万世帯となっており、共働き世帯が大幅に増加している状況です。世帯数の差は拡大傾向にあり、今後も働く男女は増えると予想できます。

参考記事:専業主婦(夫)ですが、主婦(夫)年金が無くなるってほんとですか?

専業主婦(夫)ですが、主婦(夫)年金が無くなるってほんとですか?年金保険料を払うのは厳しいです。
専業主婦(夫)年金として一般的に知られている制度は、日本の「第3号被保険者制度」を指しており、専業主婦(夫)や扶養されている配偶者が直接保険料を納めることなく、国民年金に加入できる仕組みです。この制度が廃止される可能性や議論が出ると、多くの人々に影響を与える可能性があります。

今後予定されている改定案とは

現行では、夫と死別した女性は30歳未満が5年間の有期給付、30歳以上であれば子どもがいなくても遺族厚生年金が終身にわたり給付されます。改正後は、5年間の有期給付の対象年齢が30歳から段階的に引き上げることが検討されます。

一方、男性の場合、現行は上でも触れたとおり、子のない夫が55歳未満であれば遺族厚生年金の支給は対象外です。しかし改正後は、20代~50代に妻と死別して子のいない人も5年間の有期給付を受けられるようになります。

今後、「遺族厚生年金」の受給要件がどのように変わっていくのか、厚生労働省 年金局の資料を参考に解説します。

ポイント①:男女差が大きかった『子のない配偶者』の受給要件を見直し

性別に関係なく、20代~50代で「子のない配偶者」全員が対象となる一方、「5年間の有期給付」となり、性別による差が解消されます。

出典/厚生労働省 年金局「遺族年金制度等の見直しについて②」 遺族年金制度見直し前後の変化のイメージ

現行の要件でも、30歳未満の「子のない妻」は5年間の有期給付となっています。若年層であれば女性でも就労できる可能性が高いことを考慮した期限でしたが、現代は就労の可能性に係る男女差が縮小していることを踏まえ、生活を立て直す期間として5年間の有期給付とする方向となる。

ただし、5年後に必ず給付が打ち切られるというわけではなく、障害を抱えてしまった場合は就労が難しいケースが多いため、遺族厚生年金の支払は継続される。(遺族年金と障害年金の金額が大きい方が受給される)

また、収入が基準に届かなければ(国民年金の免除制度基準額を基準とする)に届かなければ支払が継続され、収入が基準を超えた場合も、収入に応じて支給される「遺族厚生年金」が段階的に減っていく仕組みとなる。

というのも、基準を超えた時点で支給が打ち切られる制度だと、「年金が受け取れなくなるから働かないでおこう」という言われる「収入の壁」となり、働き控えにつながってしまうため、収入が伸びるにつれて徐々に支給額が引き下がっていく仕組みとしている。

出典/厚生労働省 年金局「遺族年金制度等の見直しについて②」
継続給付の支給イメージ

「遺族厚生年金」に関しては、施行の時点で女性の有期給付の年齢を40歳未満に引き上げとなる。その後20年かけて、有期給付の年齢を1歳ずつ引き上げていく形で考えています。一方、男性は施行の時点から60歳未満のすべての方が有期給付の対象になる予定となる。

改正により、男性でもらえる人は増えそうですが、女性は、人によっては終身もらえた遺族厚生年金が、段階的に有期給付に切り替わっていくことになる予定です。

ポイント②:収入要件の撤廃

出典:厚生労働省 年金局「遺族年金制度等の見直しについて」

現行の制度では、年収850万円(所得655.5万円)未満であれば『遺族厚生年金』を受給できるという収入要件がありますが、見直し後は収入要件の廃止を検討しています。高収入の方であっても、配偶者が亡くなり世帯収入が下がると生活が変化するため、収入要件に関係なく、5年間支給される制度に変わる予定です。

ポイント③:配偶者の死亡に伴う年金記録分割の導入

出典:厚生労働省 年金局「遺族年金制度等の見直しについて」

遺族厚生年金が有期給付となることで、老後に不安を感じる方もいるため、配偶者の生前に専業主婦(主夫)で厚生年金に加入していなかったり、育児や介護などで厚生年金に加入していない時期があったりする場合に、夫婦の厚生年金の年金記録を合算し、その半分を老齢厚生年金として受け取ることができる制度である。

ここでいう「年金記録」とは、あくまで婚姻関係にある間の厚生年金の年金記録のみとなる。

ポイント④:有期給付加算の創設

出典:厚生労働省 年金局「遺族年金制度等の見直しについて」

現行の遺族厚生年金は、被保険者の年金記録に基づいて導き出した老齢厚生年金額の4分の3に相当する額が、遺族に支給される制度です。見直し後は有期給付となり、給付期間が短くなるため、年金額を充実させる目的として「有期給付加算(被保険者の老齢厚生年金額の4分の1に相当する額を加算する制度)」の導入を検討している。

「遺族厚生年金」として支給される「被保険者の老齢厚生年金額の4分の3」に、「有期給付加算」として「被保険者の老齢厚生年金額の4分の1」が加算されるため、被保険者が受け取る予定だった老齢厚生年金と同じ水準となる。

ただし、遺族年金制度のすべてが改正されるわけではありません。有期給付の期間については、本当に5年間でよいのか時間をかけて検討を進めるようです。子のいる配偶者または子への遺族厚生年金は、現行通り、子が18歳になるまで支給されます、また60歳以上の夫婦世帯に対しても、現行通り遺族厚生年金が生涯支給されます。

見直しに伴い「中高齢寡婦加算」が段階的に廃止になる?

現行の遺族年金制度では、夫を亡くした妻が自分の老齢年金をもらえるまでの40歳から64歳の間、遺族厚生年金に上乗せして中高齢寡婦加算を受け取れます。2024年度は年間61万2000円の中高齢寡婦加算が上乗せとなります。

しかし、現在は女性が働きやすい環境に変わってきており、そもそも中高齢寡婦加算は女性だけに向けた制度で配偶者を亡くした夫には支給されません。そこで遺族年金制度の男女差の解消するため、中高齢寡婦加算は廃止することが検討されています。ただし、一気に加算をなくすのではなく、段階的に少しずつ減額される見込みです。

なお、「中高齢寡婦加算」は受け取り始める時点で給付額が確定するもので、既に給付されている人の金額が減るわけではありません。

遺族年金がもらえないこともある

①国民年金保険料が未納

自営業者などの方の場合、国民年金保険料を未納にすることがあるかもしれません。そうなると、遺族年金をもらうための「保険料の納付要件」が満たせず、遺族基礎年金(国民年金)がもらえないということが起こります。保険料の納付要件は、次のとおりです。

・国民年金の被保険者である間、または国民年金の被保険者であった60歳以上65歳未満の方がお亡くなりになった前日において、保険料納付済期間(保険料免除期間を含む)が国民年金加入期間の3分の2以上あること
・亡くなった日が2026(令和8)年3月末日までのときは、死亡した方が65歳未満であれば、死亡日の前日において、その月の前々月までの直近1年間に保険料の未納がないこと

出典:日本年金機構 遺族厚生年金(受給要件・対象者・年金額)

原則は「3分の2以上納付済」なのですが、直近1年間に未納がない場合には特例として保険料の納付要件を満たすものとして扱われます。とは言っても、お亡くなりになる時期はわかりません。国民年金保険料が未納のままだと、場合によっては遺族基礎年金(国民年金)がもらえないことがあります。

②年収が850万円(所得が655万5000円)以上

遺族年金の受給対象者には「死亡した方に生計を維持されていた」ことが必要です。「生計を維持されていた」というのは、亡くなった方と同居していること。または別居をしていても生活費を仕送りしていたり、健康保険の扶養に入っていたりすることをいいます。

さらに、遺族の前年の収入が「850万円未満(所得が655万5000円未満)」の収入要件も満たす必要があります。そのため、もし遺族の年収が850万円以上であれば、生計維持の対象から外れてしまい、遺族年金はもらえなくなります。

しかし、今後は、上述のとおり収入要件の撤廃を検討しております。

③子どもがいない

亡くなった方が自営業であれば国民年金に加入していたことになります。その場合、遺族は遺族基礎年金(国民年金)がもらえます。遺族基礎年金の受給対象になるのは「亡くなった方に生計を維持されていた子のある配偶者または子」です。
もし、亡くなった方が自営業者で、その遺族に受給対象の子どもがいない場合、遺族基礎年金はもらえません。また、亡くなった方が会社員や公務員で、その遺族に受給対象の子どもがいない場合、遺族厚生年金だけ受け取ることになります。

参考記事:遺族年金をわかりやすく解説します

遺族年金をわかりやすく解説します
ここでは、遺族年金は「どんな時に受け取れるのか」また、「どれくらい受け取れるのか」を解説します。万が一の時に大事な遺族の生活保障を支えてくれる国の保障です。しっかり内容を理解することで、民間の生命保険の加入の必要性を踏まえた今後のライフプランを立てましょう。

④65歳以上

遺族厚生年金の受給権者が65歳以上で自身の老齢厚生年金をもらっている方が、遺族厚生年金の受給権利も持つ場合、どちらも合わせて受給できます。ただし、遺族厚生年金が全額もらえるわけではありません。遺族厚生年金から自身の老齢厚生年金に相当する額を差し引いた金額だけ支給されます。

まとめ

遺族厚生年金の有期給付は、まだ正式に決まったわけではありません。残された家族が生活していくための大事な年金なので、じっくりと時間をかけて検討を重ねる必要があるでしょう。

今回の見直しに基づいた遺族年金制度の改正は、2025年中に行われる予定ですが、改定の内容で運用されるのは、数年後となります。

一生涯もらえていた遺族年金が5年で打ち切りとなる改悪とは考えずに、現在、新たに検討している「年金記録分割の導入」や「有期給付加算」など今後の動向に注視してまいりましょう。

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