「米国債の利率が高いって聞いたんだけど」「株式投資はしてるけど債券運用も必要かな」「債券投資はどのように始めたらいいの」と思われている方が増えている。そもそも債券とはなにか、また債券運用のリスクについてご説明します。
こんな方に読んでいただきたいです。
1.株式投資はしているけど債券で運用したことがない方。
2.米国債の利回りがいいと聞いているがどのように運用始めたらよいかわからない方。
3.債券運用始めたいけどリスクが気になる方。
債券とは
そもそも「債券」ってなに?
債券は、国や企業などの発行体が、投資家から資金を借り入れるために発行する有価証券です。債券は、あらかじめ返済期限を決めて発行されます。その期限のことを満期といいます。借りる期間が5年なら5年経つと満期になります。そして、発行体は満期になると借りたお金(額面金額)を投資家に全額返さなければなりません。投資家は、発行体に対してお金を貸す代わりに利子をもらう、というイメージです。
国が国民からお金を借りるときに発行する債券を、国の債券という意味で「国債」といいます。また、株式会社が一般の人やほかの会社等からお金を借りるときに発行する債券を、会社の発行する債券という意味で「社債」といいます。
つまり、発行体(国や企業)が破綻しない限り元本が戻っている資産運用としてはある程度計算できる投資と言えます。
出典:日本証券業協会 投資の時間 「債券投資の仕組みを知る」
債券投資は意外と多い!
資産運用といえば株式投資の印象が強いが、実は世界の金融資産全体では債券市場は株式市場よりもシェアが大きい(債券市場:約38% 株式市場:32% 現金:29%)。特に機関投資家がメインであり、特に生命保険会社等の長期の資産運用については日本・米国ともに債券での運用がメインである。
*出典:資金循環の日米欧比較 2023年8月25日 日本銀行調査統計局
また、年金を運用しているGPIF(年金積立金運用独立行政法人)は、現在約200兆円の資産を運用しているが、約50%は「債券投資」で運用しており、これまで約21年間で年利3.97%の運用を実施している。
出典:GPIF年金積立金管理運用独立行政法人 2023年度の運用状況
債券と株式の違いは
債券と株式は資産を増やすために活用される金融商品ですが、それぞれの特徴は異なります。
債券と株式は、いずれも市場から資金を調達するために発行されるものである点は同じですが、債券は定期的に利子が受け取れ、購入時の元本が償還時に戻ってくる仕組みです。
一方、株式は証券取引所を通じて売買する金融商品で、投資家は企業に出資している株主として、企業の成長に応じて値上がり益や配当金を受け取ることができます。
債券は2種類ある
出典:野村證券HP 米国国債の魅力より
債券は、利息の有無によって2種類に区別できます。1つが利付債、もう1つがゼロクーポン債(割引債)です。
ゼロクーポン債は利付債とは異なり利払いが無い代わりに、額面より低い金額で購入できます。その後、償還時に額面金額を受け取ることで償還差益が期待できる債券です。
米国債にも定期的に利息を受け取れる「利付債」と、満期までの利息分が引かれて安い価格で売られている「ゼロクーポン債(割引債)」がある。若い人には、複利運用できる「ゼロクーポン債」が適しているが、シニア世代には、毎年の利息が受け取れる「利付債」によって年金の上乗せとして受け取れる。
利付債とは
保有中、定期的(例えば半年に1回)に利息が支払われる債券を利付債と呼びます。
額面金額で発行され、定期的に利息が支払われる点がゼロクーポン債と異なります。
なお利付債には、利率があらかじめ決まっており変化しない固定利付債と、市場の金利水準に合わせて定期的に利率が変化する変動利付債の2種類があります。
一方、満期償還日に額面金額が払い戻されるのはゼロクーポン債と同様です。
ゼロクーポン債とは
ゼロクーポン債は、その名の通りクーポン(利息)がなく、その代わりに額面金額より低い金額で発行される債券です。
ゼロクーポン債を満期まで保有すると額面金額で償還されるため、額面金額に対して割引された購入時の金額と額面金額の償還差益が期待できます。
額面金額から割引した金額で発行されるため「割引債」とも呼ばれます。
ゼロクーポン債の多くは海外で発行されており、外貨建債券である場合が多いことも特徴です。
ゼロクーポン債の利回りの計算方法
ゼロクーポン債の利回りの計算について、以下を例としてご説明します。
例)額面金額100万円、発行価格80万円(額面金額の80%)、期間5年で発行時に購入
上記の例において、償還まで保有した場合の利回りを単利で計算すると、
(100万円-80万円)÷5年÷100万円×100=4%の利回りとなります。
また、ゼロクーポン債は前述の通り利息(利金)がありませんが、毎年利金の支払いがあったと仮定すると、受け取った利金を元本に加算し償還まで再運用されたとみなすことができます。このように計算するとゼロクーポン債の複利の最終利回り(債券を購入し、償還日まで保有した場合の利回りのこと)は、4.56%程度となります。
なお、日本の債券市場では慣習上単利を用いますが、欧米の債券市場ではほとんどが複利で表示されます。
ゼロクーポン債は償還差益に課税される
ゼロクーポン債の税金は償還時の差益(=償還金額-取得価額)にかかります。税率は利付債と同様で20.315%です。(2016年1月1日以降に発行された場合)
納税の方法は、一般口座の場合、みなし割引率(*1)が適用され、償還時に源泉徴収されます。取得金額をもとに償還差損益を計算した場合の源泉徴収税額とは異なるため、確定申告で実際の償還差損益を申告して精算が必要になります。みなし割引率により実際の償還差益による税額の方が少なかった場合、確定申告を行うことで税額は還付されますのでご留意ください。
なお、特定口座(源泉徴収あり)の場合は、金融機関が実際の償還差損益より税額を計算し、源泉徴収が行われます。
※1 みなし割引率:発行日から償還日までの期間が1年以内のものは0.2%・1年超のものは25%
ゼロクーポン債には以下の特徴があります。
- 利息がない
- 額面金額より安く発行され償還差益が期待できる
- 償還時の償還差益に課税される
- 源泉徴収時、みなし割引率で計算されることがあるが、確定申告により精算できる
債券はどこで購入できるの?
「国債」は、証券会社、銀行等の金融機関や郵便局などで購入できます。
一方、「社債」や「外国債券等」は証券会社で購入することができます。
債券の売買取引の方法には、証券取引所で行われる「取引所取引」と、取引所を通さないで証券会社と投資家が相対(あいたい)で取引を行う「店頭取引」の2種類があります(債券売買のほとんどは店頭取引で行われています)。
店頭取引の場合、取引する金融機関によって取引価格が異なることがあります。なお、多くは取引の際に必要なコストが表示価格に含まれているので、別途手数料はかかりません。
ただし、金融機関ですべての債券について売買できるわけではありませんので、売買が可能な債券かどうか、各金融機関へお問い合わせください。
つまり、金融機関が債券という在庫を仕入れをして、お客さんと売買している。例えば「八百屋さん」のイメージである。
購入はネット証券で
証券会社大手の野村證券では、22年末に見た時には、アルファベット、アマゾン、アップルなどの高格付けの米国企業のドル建て社債が掲載されていた。利回りも高い(年率4%台)が、いずれも販売単位が高い。一番安いアップルで最低15万ドルであり、日本円にして最低約2,200万円が必要になる。
一方、ネット証券会社であるSBI証券も銘柄数は多い。23年2月中旬時点で、三菱UFJフィナンシャル・グループや三井住友フィナンシャルグループのドル建て社債が1,000ドル単位で申し込み可能となっていた。いずれも5%前後の利回りである。また、野村証券では15万ドルからだったアップルの社債の販売単位が、2,000ドル(約29万円)から申し込み可能となっている。
IFA口座ってなに
出典:楽天証券HP IFAとは
SBI証券や楽天証券では、通常のネット口座のほかに、IFA口座も設けている。IFAは独立系の金融アドバイザーで、証券会社と業務委託契約を結び、顧客に対して運用のアドバイスや提案を行う。
顧客はIFAの契約先の証券会社にIFA専用の口座を開設して金融商品の売買を行う。顧客が証券会社に払った手数料の一部がIFAに分配される仕組みになっている。
IFAの顧客の多くは、まとまった資金を持つシニア世代であり、ネットでは購入できないドル建て社債をすすめることが多い。
手数料に関しては、IFA口座に変更しても債券に関してはかからない。ただし、株式の取引でIFAによっては1%ほど手数料が上がる場合があるという。楽天証券では1人1口座が原則なので、IFA口座に変更すると、株式や投資信託などいろいろ取引する人にとっては手数料がかさむ可能性がある。
また、IFA口座から通常のネット口座に戻す場合は、すべての金融商品を現金化したあとでなければならない。
では、IFAはどうやって選べばよいか。楽天証券では現在、IFAと約100社と提携しているが、方法は3パターンある。まずは①楽天証券HPから検索し、IFAのウエブサイトで探す②チャット操作で探す③IFAが実施しているセミナーや無料相談会に参加したりして直接コンタクトを取る方法である。
③のセミナーは無料の場合が多く、無理な営業もない。まずは、セミナーから受講し、個別相談したうえで納得のいくIFAを決めた方がよいと思われる。
債券投資のリスク
信用リスク
発行体の格付けはA以上で選ぶ
発行体の信用リスク、倒産のリスクを減らすために、世界的格付け機関のスタンダード&プアーズ(S&P)、ムーディーズ(Moody’s)の発行体格付けA以上の社債を選ぶ。通常はBBB以上が投資適格(BB以下:投機的格付け)といわれているが、1ランク上のA以上がより安全である。
為替リスク
外貨建て(ドル建て)商品のため、当然のことながら、購入時の為替レートより極端な円高の際に日本円に戻すと損する可能性がある。
例えば、1ドル=140円のときにドル建て社債10万ドルを1,400万円で購入したとする。
そして10年後に満期となり、利息と償還益で10万ドルが15万ドルに増えたと仮定する。ドルベースでは1.5倍に増えている。
もし10年後1ドル=90円の円高になっていた場合、日本円では1,350万円となり50万円の損失となる。1ドル=100円の場合は、1,500万円となり100万円の利益となる。この場合の損益分岐点は1ドル=93.4円(1,400万円÷15万ドル)である。
なお、ドル建て社債は満期まで持てば額面で償還されるが、途中売却する場合、市場価格の変動により損失となるリスクがある。
流動性リスク
①フェイル慣行
過去、リーマンショック時には、証券取引の決済に関して、当初予定していた決済日が過ぎたにも関わらず証券の受け渡しが行われていない状態(フェイル)がありました。
受け渡しが行われていない理由は取引当事者の信用力とは異なります。 フェイル慣行とは、当初の決済予定日が過ぎた時点で証券の受け渡しが行われていなくても、そのことのみをもって債務不履行とはせずに、これを容認する市場慣行のことを言います。
②ロシア国債売却禁止
ロシア政府による新たな国債や政府機関債など「ソブリン債」の日本での発行・流通禁止も掲げた。(2022.02.23)
基本は満期まで途中売却せずに保有し続けられる期間を選択する。ただし、大変革の時代であり、先行きの安全性が不透明なため、10年以上の債券については、発行元の政治・経済状況を把握することは重要である。
カントリーリスク
カントリーリスクとは、投資対象国や地域において、政治・経済の状況の変化によって証券市場や為替市場に混乱が生じた場合、そこに投資した資産の価値が変動する可能性のことをいいます。
特に国債など、その国の発行する債券に投資している場合は、発行元の国の政治・経済状態は非常に重要です。国はつぶれないという思い込みは危険で、世界では経済危機に陥っている国もあるのです。
米国債の利回りが高いってほんと?
昨今は、FRBの利上げに伴い、米国債の利回りも上昇している。以下のとおり、現在は、日本10年国債が約0.6%に対し、米10年国債の利回りは約4%を超えている状況である。
米国国債にもリスクはありますが、「信用リスク」「流動性リスク」「カントリーリスク」は相対的に低いと言えます。為替変動の影響を受ける「為替変動リスク」は気になるポイントです。
特に、円安時の購入に際しては、元本割れリスクの可能性もあるので十分に検討する必要がある。
出典:三井住友信託銀行HP マーケット情報 国債利回りより
為替リスクが心配の方は、昨今の物価高にも対応できる日本国債変動10年がいいと思われるが、現在、利回りは約0.6%程度であり、米国債と比較しても相対的に低い。米国債とのポートフォリオで持つのが良いと思われる。
保険も債券投資?外貨建て生命保険は?
外貨建て生命保険は「販売手数料」「保険関係費用」「為替手数料」等コストがかかる。コストはリターンを下げる要因となり、特に保障など必要なければ資産運用商品としては不向きある。
関連記事:隠れたコストとリスク:外貨建て保険やってはいけない理由
債券投資に向いている方は
債券の運用に有利と言われている方は、特にシニア世代であり、ある程度まとまった資金のあり、いわゆる「資産保全期」に入っている方である。
こういった方は、直接、証券会社から優良な債券の情報が優先的に入っている。証券会社は在庫を抱えており、大口で売りたいため、ますは、お得意様(資産家)に優先して営業をかけるため、有利と言える。
特に、顧客は50代から70代までの経営者や退職者の方々で、資産額や生活水準、今後の支出予定などによって、投資に回せる余裕資金や選択できる商品も変わってくる。
つまり、余裕資金が数千万円以上あって、「安定的な運用を望む」、「資産運用に手間をかけたくない」、といったシニア世代にはシンプルな債券投資が向いている。
まとめ
例えば、同時期に定年退職をし、退職金3,000万円をもらったAさんとBさんがいる。
Aさんは、は退職金を年金の足しとして毎年100万円を銀行預金から取崩しながら生活をしていた。一方Bさんは退職金を米10年国債(利回り4%)を購入した。
10年後、Aさんは取崩しの結果、資産残高は2,000万円となったが、Bさんは米10年国債の運用で毎年約100万円の利息をもらいながら生活をし、元本3,000万円はそのまま償還され、資産残高は1,000万の差がついた。
債券運用は当面使うあてのない資金を10年米国債等を購入することで、元本を減らすことなく、ある程度定期的に収入を得ることができる資産寿命を伸ばす方法である。
日本のメガバンクに預金した場合、現在、金利は円の普通預金で0.002%、大口の定期でも0.01%であり、預金よりも国債で運用することで、より高い利息を安定的に得ることができる。
しかし、債券運用は、株式投資と比べ安全性が高いと言ってもノーリスクではなく、特に外国債であれば為替リスクについては十分理解したうえで購入すべきであることを付け加えておく。
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