毎月分配型投資信託は、「銀行員が勧めるから退職金を使って買ったけど大丈夫なの?」「毎月分配型投信は資産形成には不向きと聞いたので不安です!」との批判が多いです。
しかし、毎月分配型投信の仕組みそのものは悪くありません。毎月分配型投資信託のメリット・デメリットを見て、ご自身にあった商品かを見極めていきましょう。
毎月分配型投資信託とは
そもそも投資信託とは
投資信託(ファンド)とは、投資家から集めたお金をひとつの大きな資金としてまとめ、運用のプロであるファンドマネージャーが株式や債券などに投資・運用しその運用の成果として生まれた利益を皆さんに還元するという金融商品です。
まさに、お金を「信じて」「託す」商品です。
金融商品ですのでリスクはありますが、運用のプロにお金を預けて運用をお任せできるので、毎日相場を追いかける必要もなく、比較的初心者にも始めやすい運用商品と言えるでしょう。
運用を任せる代わりに、信託報酬というコストがかかります。最終的に運用結果からコストを差し引いた額が自分の利益になります。
その中で、毎月決まった日に決算を行い、運用による収益などから毎月分配金を支払うものを「毎月分配型投資信託」と呼びます。
毎月分配型投資信託とは
- 毎月分配型の投資信託は、1ヵ月ごとに決算を行い、収益等の一部を収益分配金(分配金)として毎月分配する運用方針になっています。
- このような運用方針であるため、「投資信託の運用を続けながら、運用成果だけは毎月こまめに受け取りたい」というような投資家のニーズに合った商品といえます。
- ただし、分配金については、毎月の分配や分配金額が保証されているものではありません。
- 毎月分配金の投資信託への投資にあたっては、「分配金の仕組み」を正しく理解することが重要です。
基本的な仕組みや運用の考え方は、投資信託と何ら変わりありません。
違うのは、運用途中にも毎月「分配金」が受け取れることです。
ですので、退職後にお金を運用して増やしながら取り崩すことで「年金の足しになる」とのニーズにあった商品です。
参考:日本証券業協会 「毎月分配型の投資信託」とは?https://www.jsda.or.jp/about/hatten/risk/bunpai/index.html
売れすぎた!グローバル・ソブリン・オープン(毎月決算型)とは
毎月分配型投信の代表といえば、いわゆる「グロソブ」と呼ばれている商品です。
国際投信投資顧問の「グローバル・ソブリン・オープン(毎月決算型)」は、2008年には純資産総額5兆7000億円を超える超巨艦ファンドに成長しました。
ちなみに、現在(2024年10月)人気のある投資信託商品として、eMAXIS Slim米国株式(S&P500)がありますが、その純資産総額は、5兆7696億円でとなっていますので、ほぼ同規模の純資産総額でした。
「グローバル」とは「世界中の」ということ、「ソブリン」とは「主権国の」ということを意味します。一般的に先進諸国の国債は優良格付債と認識されています。毎月分配型投信のメリットは、毎月分配金が受け取れることです。グローバル・ソブリン・オープンの場合、2014年1月から毎月20円で推移しています。これは1万口あたりの税引前の金額です。設定来の分配金累計で計算すると、約4.6%の年利回りとなります。
しかし、ピーク時には純資産総額が5兆円超もあったグローバル・ソブリン・オープンも、今では約2,800億円ほどに減ってしまいました。理由は、当時の進行する円高の影響で基準価額が下がり続けていることと、先進国の低金利政策で分配金が減ってしまったことです。
毎月分配型投信のメリット・デメリット
メリット | デメリット |
---|---|
○投資信託を売却せず、運用を続けながら、その運用成果を毎月こまめに受け取ることができます。 ⇒年金の足しにする、毎月の生活費やお小遣いの一部に充当する、等 | ○毎月の分配金には税金がかかるため、控除される税金の分だけ再投資額が少なくなり、投資の効率が悪くなります。 ⇒分配金を利用する予定がなく、分配金で同じ投資信託に再投資する、等 |
毎月分配型投信のメリット
これは言うまでもなく、分配金を定期的に受け取れることでしょう。目に見える形で定期収入があると、投資をしている手ごたえも感じられます。
銀行預金に預けておくよりも金利がよく、運用して増やしながら分配金を毎月得られます。
つまり、大きく増えさなくてもいいので、運用しながら取り崩していきたいと考える方、具体的には
「資産形成」世代を過ぎた、60歳以上の「資産運用(管理)」世代にとっては良い金融商品と言えるでしょう。
毎月分配型投信のデメリット
運用で収益が出ていようが出ていまいが、毎月分配金を支払う仕組みになっているのです。
つまり、運用で利益が出ていないのにも関わらず分配金を支払う仕組みになっていますから、場合によってはどんどん元本を取り崩していくことになります。
そして実際、多くの毎月分配型投資信託は、運用益を超えて分配金を出しているのが現状です。いわゆる「タコ足配当」(タコが自分の足を食べる)状態である。
また、長期資産運用にあたっては、複利の効果を最大限に活用するのが重要にもかかわらず、毎月分配型投信は運用益を分配することで再投資額が少なくなり、複利の効果が表れにくい商品と言えます。
つまり、毎月もらえる小さな喜び(分配金)を得る一方で、複利という大きなメリットを失っています。
また、複雑な運用の仕組みにより購入時手数料も高い(3%近くのものが多い)であり高コスト商品である。
毎月分配型投信に4600億円流入超過!
日本経済新聞(2024年10月18日掲載)に、2024年度上半期(4~9月)は4,662億円の流入超だったとの記事があった。
その記事には、「24年1月に始まった新NISAでは複利効果が得にくい毎月分配型投信が一律で対象から外れた。制度開始前後には、毎月分配型投信を解約して対象投信に乗り換える。しかし、24年度上半期の純流入額は、23年度同期やその前と並ぶ規模だ。買い手の中心は資産の取り崩し期を迎えた高齢者とみられる。」とあった。
また続けて、「三菱アセット・ブレインズによると、4~9月の国内公募投信の純流入額ランキングの上位5本のうち2本が毎月分配型だった。3位の「アライアンス・バーンスタイン・米国成長株投信Dコース毎月決済型(為替ヘッジなし)予想分配金定時型」には、6,421億円、4位の「インベスコ世界厳選株式オープン(為替ヘッジなし)(毎月決済型)」には3,196億円の純流入があった。」との記事も掲載されていた。
つまり、定年退職後に公的年金をもらいながらかつ、資産を取り崩しながらシニア生活を送る退職世代には、まさに公的年金の不足分を埋めてくれる、まさに丁度よい金融商品である。
毎月分配型投信はここで見極める!
数ある毎月分配型投資信託のなかでも良し悪しを見分ける方法をご紹介します。
それは、ファンドの収入を計算して見ることです。
要するに、ファンドの収入が分配金を上回っていれば、無理して投資総額のなかから分配金を出す必要はなく、利息や配当金のように分配できるということです。
ファンドの収入の計算方法としては、ホームページなどに掲載されているマンスリーレポートに載っている、直接利回り(直利)から計算します。
直接利回りは年利で記載されており、以下の計算式でファンドの収入が計算できます。
基準金額×直接利回り÷12=ファンドの収入
さらに、ファンドの収入÷今月の分配金=毎月の分配金のうち配当収入で賄えている割合を算出します。
この計算式によって算出された金額が、毎月の分配金を上回っているかどうかがポイントで、上回っていれば分配しても問題ないということになります。
もし、1か月あたりのファンドの収入が毎月の分配金を上回っていれば、たとえ運用による収益が少なくても、資産を取り崩さずに済むということがわかります。
例えば、毎月分配型投資信託分配金ランキング1位(MINKABUランキングより)である、
PIMCOニューワールドインカムファンド<メキシコペソコース>(毎月分配型)の場合
基準価格7,912円(*1) × 直接利回り(平均直利)7.5%(*2)÷12=49.45円
*1:2023.08.18現在 *2:2023年6月末マンスリーレポートより
2023.7月の分配金は70円。つまり、49.45円÷70円=70.64% のため約30%程度元本取崩している状況である。
続いて、毎月分配型投資信託分配金ランキング2位(MINKABUランキングより)である、
三菱UFJ米国バンクローンファンド通貨選択シリーズ<メキシコペソコース>(毎月分配型)(スマートスター)の場合
基準価格7,881円(*1) × 直接利回り(平均直利)9.2%(*2)÷12=60.42円
*1:2023.08.18現在 *2:2023年6月末マンスリーレポートより
2023年7月の分配金は50円。つまり、60.42円÷50円=120.8% のため資産を取り崩していない状況である。
ただし、ファンドの収入は毎月一定の金額というわけではありません。たまたま収入が少なかったり、逆に多かったという月もありますので、そのファンドが健全かどうかを確認するためには、数か月分のデータをとってみましょう。
毎月分配型投資信託以外でも定期的に受け取れる?
ハイリスクの毎月分配型投資信託を選択するのではなく、自分にあった投資信託を選択し、その投資信託の売却方法を変えることで、定期的(毎月)受け取れる方法がある。それが定額売却サービスです。
定期売却サービスには3つの方法があります。
①金額を指定する方法
「毎月〇万円ずつ」といった形で、金額を決めて投資信託を売却していく方法です。同じ金額が解約されるので、収支を管理しやすいのがメリットです。
一方、留意点もあります。この方法だと資産形成のときには有効なドルコスト平均法(毎月一定額を買い付けることで、基準価額が高いときには少しの口数しか買えず、安いときにはたくさんの口数が買えるので、平均購入単価を安く抑えられる)の逆を行うことになります。
つまり、取り崩しをスタートした直後に相場が下落して元本が減ると、お金の減り具合が大きくなる(お金が早くつきてしまう)可能性があるのです。ただ、これは事前に予測はできません。
②定率指定する方法
指定している投資信託を、あらかじめ指定した率に相当する口数を毎月売却していく方法です。
これは「保有残高の〇%ずつ」という形で、毎月一定比率で売却する方法をいいます。例えば、3,000万円の金融資産を初年度から5%ずつ解約すると1年に解約する金額は150万円(月12.5万円)です。ただ、運用しながら取り崩すので、評価額は変動します。投資環境がよくて3,200万円に増えている場合には解約額は160万円、逆に投資環境が悪くて2,800万円に減っているときには解約額は140万円になります。このように、「一定率」解約していく方法だと、投資環境が悪くて元本が減っているときに解約額を抑えられるので、結果的に資産が長持ちする可能性が高くなります。
ただし、毎回の受取額は変動しますし、資産の取り崩しにともなって保有残高はだんだん減っていくので、それに伴い受取額も減っていきます。取り崩しが進むと受取額は少なくなってしまうのがデメリットです。
③期間指定 最終受取年月を指定
当該年月までの売却回数で等分した口数を定期的に売却していく方法です。
「保有残高の〇口相当額」という形で、毎月一定口数を解約していく方法です。例えば、最終受取年月を指定して、保有する口数を解約する回数で等分した口数を解約していきます。この方法も、定率解約と同様、安いときに多くの口数を解約することは避けられますが、毎回の受取額は変動します。「いつまでに受け取る・使い切る」と決めている人にはよい方法です。受取額の変動を抑えたい場合は、値動きの小さい(リスクの低い)投資信託を選択しましょう。
これらの解約サービスは一度決めたらずっと同じ方法である必要はありません。途中で変更もできるため、例えば、リタイア後すぐは定率解約で取り崩していき、70歳以降は80歳までに使い切ると決めて定口数解約をするといった方法も考えられます(80歳以降は公的年金と預貯金に頼る)。
まとめ
自分に合った投資信託とは
ここまでの話を聞くと、毎月分配型投信は良い投資商品だとは思えなくなってしまうかも知れません。0しかし、誤解のないように言いますが、100%完璧な金融商品はないです。
実際、シニア世代の資産運用には、毎月分配型投信はマッチする場合もあります。
現役時代にしっかり資産を築き、今後は大きなリスクを取る必要はないと思われている方にとっては魅力的な金融商品です。
しかし、これから長期にわたって資産を大きく育てていきたい世代にとっては、あまりメリットはありません。長期にて資産運用をするのであれば、毎月分配金を出す商品ではなく、その分配金を再投資する投資信託を選んだ方が、複利の効果を最大限生かすことでできます。
つまり、毎月分配金を出す仕組みそのものが悪いのではなく、その仕組みを理解しないままに商品を購入してしまう、ということが問題なのです。
「自分に合った運用商品は何か」を考えるにはまず、自分は「いつまでに・いくら増やしたい」のかをご自身でしっかりと理解し、目的と目標を明確にすることが大切です。
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