日本では、すべての人が健康保険に加入している国民皆保険制度をとっています。高額療養費制度はだれもが使える制度でありながら、知らないために申請をされていない方も多いです。高額な治療費や薬剤費がかかったときに払い戻してくれるありがたい制度であります。この高額療養費制度をわかりやすく解説します。
これを読むことで
- 高額療養費制度とは
- どのように請求をしたらよいか
- 民間の生命保険の必要性
がわかります。
*令和5年6月時点の内容であり、今後の制度改正により内容・金額等が変わる可能性があります。また、金額については概算値を表記しておりますのでご了承ください。
高額療養費制度とは
同じ医療機関や薬局の窓口で支払った医療費が、ひと月の上限を超えた場合に、この超えた部分が払い戻される制度です。
ひと月の上限額
下記の表のとおり、年収(国民健康保険は総所得金額)によって上限額は異なります。
特に、サラリーマンの方は、(ウ)標準報酬月額28万~50万 が多い(約80%)です。ご自身の標準報酬月額はねんきん定期便にて確認できます。
つまり、多くの方はひと月の上限額は8万~10万円程度となります。
参考記事:ねんきん定期便には生命保険見直しのヒントがある: ねんきん定期便の見方
【出典】厚生労働省ホームページ 厚生労働省保険局 「高額療養費制度を利用されるみなさまへ(平成30年8月診療分から)」
では、上記「ウ」の方(年収約370~約770万円)を例に、3つの具体的な事例を見ていきます。
事例①入院・手術で高額になった場合
【出典】厚生労働省ホームページ 厚生労働省保険局 「高額療養費制度を利用されるみなさまへ(平成30年8月診療分から)」
事例②薬剤費で毎月高額になった場合(多数回該当)
過去12か月以内に3回以上、上限額に達した場合は、4回目から「多数回」該当となり、上限額が下がります。
過去12か月とは、現在の月から数えて過去1年間です。年や年度は考慮する必要はありません。(現在が2024年8月であれば、該当期間は2023年9~2024年8月となります。)
【出典】厚生労働省ホームページ 厚生労働省保険局 「高額療養費制度を利用されるみなさまへ(平成30年8月診療分から)」
例えば、最近がん治療で話題となっている免疫チェックポイント阻害薬である、オプジーボの薬価は計算すると、1ヶ月で約73万円します。患者さんによって負担割合は違いますが、一般的な医療費3割負担で計算すると、薬代だけで1ヶ月約22万円、年間では約264万円となり、患者さんの負担は大きくなっています。
しかし、高額療養費制度を申請すれば、自己負担は1か月約8.5万円となる。続けて服薬する場合、4か月目からは、さらに自己負担が1か月約4.4万円に減額される。(多数回該当)
事例③人工透析などの場合(高額長期療養)
糖尿病など悪化し人工透析を受けた場合、治療費は1か月で約40万円かかります。医療費3割負担で1か月で約12万円となり、さらに高額療養費制度を申請して1か月で約8万円となる。
さらに人工透析等(*1)の場合の自己負担は1か月1万円となる。(高額長期療養)
*1 人工透析・慢性腎不全・血友病・HIVの自己負担は、1か月1万円となる。人工透析(高所得者)の場合は自己負担額は1か月2万円となる。
世帯による合算もある 世帯合算
おひとり1回分の窓口負担では上限額を超えない場合でも、複数の受診や同じ世帯にいる他の方(同じ医療保険に加入している方に限ります。)の受診について、窓口でそれぞれお支払いいただいた自己負担額を1か月単位で合算することができます。
その合算額が一定額を超えたときは、超えた分を高額療養費として支給します。
※ ただし、69歳以下の方の受診については、2.1万円以上の自己負担のみ合算されます。
高額療養費制度の範囲外
①入院食事代:1,380円/日 460円/一食(住民税非課税世帯210円)
②差額ベット代:1日あたりの平均額は6,527円/日(最低額は50円/日~最高額385,800円/日)となっている。
③美容整形 歯のホワイトニング・矯正等
④先進医療:重粒子線治療約314万円等
気を付けよう!差額ベッド代を勝手に請求されることも・・
本来、差額ベッド代は、患者の希望によって利用した場合に請求されるものであり、医療機関の都合で請求されるものではない。
勝手に請求されないためにも以下3つに気を付けてください。
・大部屋を希望する意思表示をすること
・差額ベッド利用の同意書にサインをしないこと
・同意書にサインをしていないことで支払を拒否すること
申請方法
事後申請
先に医療機関に窓口負担額(約30万円)払って、後から保険者(健康保険組合)から超過分(約21万円)を戻してもらう方法。
健保組合加入の場合、保険証に記載されている健康保険組合の支部に連絡し、「高額療養費支給申請書」を記入し提出する。払い戻されるまでに約3か月程度かかる。
*有効期限は診療を受けた翌月1日から2年間となるので注意。
国民健康保険加入の場合、自己負担額を超えていた月の3~4か月後に該当する世帯に申請書が郵送されます。その申請書に必要書類を添付の上郵送で提出します。
事前申請
事前に高額な医療費であることがわかっている場合、「限度額適用認定証」を提出し前もって健康保険組合支部に申請しておけば、医療機関では、申請受理された「限度額適用認定書」と高額療養費制度の自己負担限度額(約8~10万円)のみの支払ですみます。最終的には支払う金額は事後申請でも同じとなります。
*国民健康保険は市町村に申請し即日発行してもらえるが、主に中小企業等が加入する協会けんぽでは、約1週間程度かかるので要注意。
【出典】全国健康保険協会(協会けんぽ)ホームページより
付加給付
大企業で組合健保に加入している場合、高額療養費制度に加えてさらに組合健保が独自に負担してくれる制度がある。
例えば、以下の企業では、自己負担限度額のうち、1か月3万円を超える分が一部負担還元額として払い戻されます(事後給付)。勤務先の事業所および健康保険組合のホームページで必ず確認しましょう。
【出典】住友生命健康保険組合ホームページ 医療費が高額になるときを参照
まとめ
高額療養費制度は健康保険証を持っていればだれでも使える制度であるが、認知されていないことが多く、該当していても申請されない人も多い。高額な治療費がかかる時には必ず申請をしましょう。
この制度により、健康保険適用の治療であれば自己負担は少なくなり家計への圧迫も少なくなる。しかし、昨今ではネット等により海外での治療実績のある薬剤等が認知されているが、日本においては健康保険が適用されていない治療・薬剤等もある。
そのため、がんになった場合に一括で支払われるタイプや自由診療にも対応している民間の生命保険も登場している。また、病状によっては個室等で治療を望む方も多いと思われる。
貯蓄等がある程度あればカバーすることも可能だが、民間の生命保険を持つことで、自由診療の治療や薬剤、もしくは先進医療など患者が選定できることができ、治療の選択肢を増やすことができる。
必要以上に加入する必要はないが、必要最低限の準備も検討の余地はある思われる。
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