「退職金で資産運用しませんか?」と外貨建て生命保険を勧められたことはありませんか。
「円建てに比べ高い利回りが期待できますよ!」「円だけで資産を持つ時代ではないですよ!」「万一の死亡保障もついているので安心です!」との謳い文句で特に銀行の窓口では販売も好調だが、実は、隠されたコストと契約者が知らずに負っているリスクがあります。
ここでは、
- パンフレットや設計書ではわかりづらい隠された手数料(コスト)を解説します。
- 販売員も教えてくれない加入者自身が負うリスクを解説します。
外貨建て生命保険苦情の実態
銀行等代理店で発生した外貨建て生命保険の苦情件数は、2019年2,822件となり、前年比1割増えている。
また、国民生活センターは、2020年2月20日に「外貨建て生命保険の相談が急増しています!」と題する報告書を公表した。これによれば、2018年の相談件数は538件であり、2014年度(144件)の3.7倍以上であった。また、70歳以上の高齢者からの相談の割合が全体の約半数を占めている。
例えば、「元本保証を約束して契約したが、元本保証ではなかった。」「定期預金をしたつもりが、外貨建て個人年金に加入していた。」など元本割れリスクがあることについて消費者が十分に理解していないあるいは消費者の意向と異なる勧誘が行われている。
高齢者からは「損が出るような商品を銀行が売るとは思わなかった」といった落胆した相談も多い。
2019年以降は、外貨金利低下により販売数が減少している販売会社もあるが、一時払い保険の販売に占める外貨建て商品比率は主要行で6割、地域銀行で8割弱と依然高水準であり、また、2022年は積立利率も高く(2022年約4%~2023年5月3.6%:契約時から10年間)なっており、特に一時払い商品の販売が銀行等で好評である。
しかし、販売員の知識・スキルに格差があり、商品知識・説明力不足に不満を持つ顧客も多いとの指摘もされている。外貨建て生命保険の説明書には難解な用語が多用されており、それを理解するには金利、為替、保険に関する高度な知識および経験がなければ困難である。そのため、一般社団生命保険協会は「外貨建て保険販売資格試験」を創設し、外貨建保険販売資格者登録制度の運用を始めている(2022年4月~運用開始)。
金融レポートには、外貨建て生命保険の場合、外貨建て生命保険のパッケージを構成する外国債券と投資信託、掛け捨て死亡保障を別々に購入・契約したほうが顧客のコストが低くなる場合があり、かつ説明の負荷も軽くなると指摘されている。
それにも関わらず、そのような情報提供をしないまま、あえて外貨建て生命保険を販売し、高い手数料を徴収することは顧客本位の業務とは言えないという見解も示されている。
隠された5つのコスト
その1:販売手数料
その2:保険関係費用
その3:運用関係費用
その4:年金管理費用
その5:為替手数料
コストその1:販売手数料《平均4~10%》
銀行等が販売している外貨建て生命保険の販売手数料は約4%~10%が相場である。一方、金融庁が選定している「つみたてNISA」はノーロード(販売手数料無料)がほとんどであり、約4%~10%は高コスト商品であり、資産運用にとってはリターンを引き下げるマイナス要因となる。
例えば、一時払いで1,000万円の保険料を支払った時点で販売手数料(40~100万円)が差し引かれるため、960~900万から運用がスタートする。支払った保険料のすべてが運用に回るわけではない。
設計書に示されている「積立利率」は、あくまで支払った保険料から販売手数料(4~10%)など初期費用を差し引いた後の積立金に対して適用される利回りであるため、実質的な利回り(支払った保険料に対して適用される利回り)と勘違いされていることが多い。(一部の商品は全額運用され、運用期間中に販売手数料が差し引かれる商品もある。)
コストその2:保険関係費用 《平均年率1.05%》
保険会社や商品によって様々だか、例えば契約締結・維持にかかる費用・死亡保障のための費用。特に一時払い商品などの死亡保障は支払保険料とほぼ同額であり、薄い保障機能のためにコストを支払う必要はない。保障の必要のない方であれば不要なコストである。
コストその3:運用関係費用《平均年率0.2%》
運用期間中において差し引かれる手数料であり、毎日積立金から差し引かれる。同様の手数料である投資信託の信託報酬の目安は0.1~0.5%程度である。最安値インデックス型の投資信託商品は、信託報酬0.09%もある。投資信託よりコストがかかる商品が多い。
コストその4:年金管理費用《平均年率1.0%》
年金支払い管理に必要な費用。受取年金額に対して受取期間中継続的に費用がかかる。
では、投資信託商品と外貨建て生命保険の販売手数料(コスト)による運用成果の違いは。
例えば、元本1,000万円を年率3%で運用場合
①投資信託(インデックス型)商品(販売手数料無料・信託報酬0.2%)
②一時払外貨建て生命保険(販売手数料5%・保険関係費用1.05%・運用関係費用0.2%)
*野村證券 確定拠出年金 簡易シュミレーションより計算
10年後の運用成果 ①1,318万円 - ②1,130万円 188万円の差!
20年後の運用成果 ①1,737万円 - ②1,344万円 393万円の差!
コストその5:為替手数料《対顧客電信売買相場の仲値(TTM)の±50銭》
円と外貨を交換する際にかかる費用。 円で保険料を振込、円で受け取る場合は、為替レート1円のコストがかかる。契約時より1円以上円安になっていないと元本割れのリスクがある。
為替リスク
退職金を使って一時払い外貨建て生命保険に加入したが、加入時より円高になり、大きな含み損が出ていて不安でしかたがない」と言われる方も多い。外貨建て生命保険は為替リスクを理解されずに加入されているケースが多い。
例えば、300万円を一時払いで払い込む商品(1米ドル=134.6円の場合):積立利率3.63%
契約時の一時払い保険料は22,288.26米ドル(1米ドル=134.6円)。設計書をみると10年後に解約すれば、31,836.91米ドルとなっている。1米ドル=134.1円(為替手数料差引後)円で換算すると、4,269,330円となり、返戻率は142.3%(426万円/300万円)になります。
これは今後も為替が契約時と変わらないと仮定して場合であり、あくまでバーチャルな数字。もし、これ以上円高になっていれば426万円より減少し、さらに円高がすすめば元本割れリスクもある。
(円安であれば増える可能性もある)。
外貨建ての保険の場合は元本が保証されているのは、外貨ベースでの話なのです。保険は預金同様元本割れしない神話が根強いため騙されてしまうこともあります。
販売員が教えてくれない4つのリスク
その1:インフレリスク
その2:契約初期の元本割れリスク
その3:解約控除
その4:市場価格調整率
リスクその1:インフレリスク
外貨建て終身保険などで運用する場合、長期で固定運用することで将来のインフレリスクにさらされる恐れがある。例えば、現在の100万円は年1%のインフレが続いた場合、20年後は約82.0万円、30年後は約74.2万円(74.2%)に目減りする。年2%のインフレが続けば、20年後は約67.3万円、30年後は約55.2万円(約50%)に目減りする。終身保険等で長期の資産運用することはインフレリスクには対応できないと言える。
リスクその2:契約初期の元本割れリスク
仮に同じ為替レートであった場合でも、解約返戻金がもともと支払った保険料(元本)を超えてくるのは数年経過後。為替が円高になれば元本復帰までさらに年数を要する。円安になれば元本復帰も早くなるが、為替がどうなるかは誰にもわからない。
ですが、設計書の解約返戻金の推移をみて、「ああ、何年か待てばプラスになるからいいや」と考えてしまいます。株式投資が怖いと言われる原因は儲かるかもしれないけど損するかもしれないという不確実性(リスク)に対する恐怖心からくる。だから投資よりも結果が明記されている保険を選んでしまう傾向があるので要注意。
リスクその3:解約控除《0%~10%》
保険の解約返戻金を計算する際、保険契約者の持ち分である保険料積立金から差し引かれる金額のことをいいます。
契約日からの経過年数に応じて控除する金額が異なり、通常、契約日からの経過年数が短ければ短いほど高くなります。なお、保険料が10年以上払い込まれた場合には、解約控除が行われないのが一般的です。つまり、設計書に記載されている10年間の適用積立利率は実際の利回りとは違う。高い積立利率が本当に魅力があるのか冷静に判断する必要がある。
リスクその4:市場価格調整率(MVA)《0.1%~0.9%》
解約返戻金の受け取りの際に、市場金利に応じた債券の価格変動が解約返戻金に反映される仕組み。つまり、市場の金利が今より上がると解約返戻金は減る。
保険会社は、預かった保険料を安全性を考慮し主に債券で運用します。解約時の債券市場の金利が契約時より高くなった場合は、相対的に債券の価値が下落するので返戻金が減額されます(逆に、市場金利が低くなった場合は返戻金は増額されます)。したがって、市場価格調整率機能を有する保険には、債券市場の金利の変動によって解約控除に併せて市場価格調整率(0.1%~0.9%程度)減額され解約返戻金が払込保険料を下回る可能性(元本割れ)があるので要注意です。
まとめ
外貨建て生命保険はコスト・リスクの両面からみても資産運用としては不向きである。
- 生命保険は長期の商品であり自由に出し入れできない(流動性がない)特徴があることを覚悟して加入する必要がある。
- また、外貨建てはあくまで外貨建ての最低保障であり、為替(円高)によっては元本割れリスクも可能性があることを考慮したうえで加入することが必須である。
- 保険であるという安心感を与えることでコストやリスクの十分な説明もなく販売されるケースが多く苦情につながることも多い。資産運用であれば保険でする必要はない。つみたてNISAのような低コストなものを選択することが重要。
- すでに加入している外貨建生命保険があれば見直しの検討価値あり。解約することによるサンクコスト(すでに支払ってしまって取り戻すことのできない費用)にこだわってそのままお金をおいておくよりも資産形成するためにもっとふさわしいお金の置き場所に移すほうがよい。
- 見直しを検討する際に重要なのは、死亡保障が必要とされる方は保険と資産形成は別枠で考える。つ まり保障は掛け捨て保険(定期保険・収入保障保険等)で必要な額を必要な期間だけ加入することで保険料をかなり抑えることができる。一方、資産形成は、つみたてNISA等で運用することで、低コストかつ低リスクで資産形成することができる。また、株式等に資産を配分することでインフレリスクにも対応でき、かつ必要な時(お子様の大学費用等)に自由に引き出すこともできる。
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