厚生労働省の令和4年度離婚に関する統計の概要によると、2020年に離婚した夫婦のうち、20年以上同居した、いわゆる「熟年離婚」の割合が21・5%に上り、1990年の13・9%と比べても約1・5倍に増え、統計のある1947年以降で過去最高になりました。
また、離婚件数全体でみると、2020年は19万3,253組。2002年の28万9,836組をピークに、減少傾向にありますが、結婚した夫婦の3組に1組は離婚する計算になります。
熟年離婚の場合、持ち家をどちらが住み続けるのか、住宅ローンはどうするのか、また、養育費などの協議も大きな問題であるが、年金まで分割されることを知らない方も多いです。特に、結婚期間が20年以上でお子様も成人している場合、主に問題になるのが、この年金分割である。
年金分割は2種類ある
年金分割制度の背景
年金分割は、2007年4月から始まった制度です。
厚生年金の場合、老齢厚生年金などの給付の額は、被保険者の標準報酬月額(被保険者が受ける報酬月額を決まった等級の区分に当てはめたものになります)を基礎に算定されます。
そのため、妻が結婚後専業主婦であったり、短時間のパート勤務しかしていない場合、特に熟年離婚であればあるほど、離婚後の就職が難しい可能性があるため、将来受け取れる年金額が非常に少なくなってしまいます。
他方離婚をしても、勤めをしている男性の方は、そのまま退職後も満額で年金を受け取れるといった不公平を正そうと設けられた制度です。
年金分割には、合意分割と3号分割の2種類あります。
合意分割とは
合意分割制度は、共働きの夫婦が離婚するときに適用される制度です。
2007年4月1日以降に離婚した場合、結婚期間中に納めた厚生年金の標準報酬部分を最大で50%まで分割できます。
分割の割合は基本的に話し合いで決めますが、双方の同意を得られない場合は、家庭裁判所での調停や審判が必要となります。割合の決定後、年金事務所に年金分割を申請します。
合意分割の場合、分割割合は最大の50%になる事例がほとんどである。
3号分割とは
3号分割制度の「3号」は国民年金の第3号被保険者のことで、専業主婦を指します。
2008年4月から離婚するまでの間、妻が専業主婦だった期間中の夫の厚生年金の標準報酬額の50%を受け取ることができます。
話し合いや調停、審判をすることなく決められた割合で分割できる点が、合意分割制度と大きく異なります。
なお、離婚後、妻が年金を受給できる年齢に達すると、老齢厚生年金として亡くなるまで支給され続けます。
離婚前に大体の年金分割後の見込額を教えてくれる
離婚に踏み切ろうと思っても、離婚後生活していけるのだろうかと不安に思われる方も多く、事前に年金額を確認されたいと思う方もいる。
お近くの年金事務所では、配偶者に知られずに『年金分割の情報開示請求』ができます。
この情報提供請求は、離婚前でも配偶者に知られることはないようです。しかし、個人番号または年金基礎番号が夫婦共々必要になりますのでご注意ください。
必要書類
日本年金機構のHPより『年金分割の情報提供請求書』をダウンロードすることができます。
②基礎年金番号またはマイナンバーを明らかにすることができる書類
・請求書に基礎年金番号を記入するとき
請求者の基礎年金番号通知書または年金手帳等の基礎年金番号を明らかにすることができる書類
- 請求書に個人番号(マイナンバー)を記入するとき
個人番号カード(マイナンバーカード)等
③婚姻期間等を明らかにすることができる書類
- 婚姻期間を明らかにすることができる書類
それぞれの戸籍謄本(全部事項証明書)、または戸籍抄本(個人事項証明書)のいずれかの書類
(請求日から6カ月以内に交付され、婚姻日および離婚日が確認できるもの) - 事実婚関係にあるとき
事実婚関係にある期間の情報通知書等を請求する場合は、その事実を明らかにすることができる書類(住民票等)
離婚後の年金分割シュミレーション
合意分割を行うことで、受け取る年金額はどのくらい変わるの?
年収500万円の夫と年収150万円の妻が離婚し、分割割合は、夫婦それぞれ50%となった場合、それぞれが月に受け取れる年金額の目安です。(国民年金は月額6.5万円として計算)
婚姻年数10年 夫:約15万円→約14万円 妻:約7.7万円→約8.6万円(+0.9万円)
婚姻年数20年 夫:約15万円→約13万円 妻:約7.7万円→約9.6万円(+1.9万円)
妻が離婚後に働き続けた場合、合計の年金額はより多くなります。
また、年金分割というのは、結婚期間中にそれぞれが納めてきた厚生年金保険料を、夫婦一体として納めてきたとみなして分割の際に決めた割合でそれぞれに再配分する仕組みであるため、妻の方が年収が高い場合は、夫の方が年金額は増える。
3号分割で受け取る年金額はどのくらい変わるの?
年収600万円の会社員と専業主婦が離婚した場合。(妻は結婚前および結婚中専業主婦と仮定)
それぞれが月に受け取れる年金額の目安です。(国民年金は月額6万5,000円として計算)
婚姻年数10年 夫:約16.8万円→約15.0万円 妻:約5万円→約6万円(+1万円)
婚姻年数20年 夫:約16.8万円→約13.1万円 妻:約5万円→約8.6万円(+3.6万円)
妻が離婚後に会社員や公務員として働き始めた場合、年金額が上乗せされます。
繰り返しになりますが、この制度の対象となるのは、2008年4月1日以降の専業主婦期間のみになります。そのため、2008年4月1日以前から結婚して専業主婦であった場合には、それ以前の婚姻期間中の年金分割については、先に述べた合意分割を別途行う必要があることには注意してください。
年金分割のよくある5つの勘違い
その1:夫の年金の全部が半分になるの?
いいえ、結婚期間中の厚生年金部分のみが年金分割の対象となります。
年金分割の対象となるのは、結婚後に納めた厚生年金保険料です。そのため、結婚前に納めていた保険料に関しては、年金分割できません。
晩婚の場合、結婚から離婚までよりも、結婚前に納めた保険料の方が圧倒的に多く、年金分割による不利益を抑えられることがあります。
分割されるのはあくまで厚生年金部分だけ基礎年金や企業年金は制度の対象外です。
その2:専業主婦は合意不要で無条件に半分もらえるの?
いいえ、無条件でもらえるのは、あくまで2008年4月(改正法施行後)以降の分だけです。
なお、3号分割とは異なり、合意分割の場合には、改正法施行前の婚姻期間も対象に含まれます。
その3:いったん合意したら拒否はできないの?
いいえ、離婚後2年以内に年金事務所での請求手続きが必須となります。
2年を過ぎると請求できず、拒否することができます。
その4:夫が亡くなったら消滅する?
いいえ、夫は亡くなっても(再婚されても)、分割された金額はあくまで自分の年金なので生きている限りもらえます。
また、妻が別の男性と再婚した場合も、変わらず分割された年金は支給されます。
その5:離婚が成立すればすぐにもらえるの?
いいえ、無事に年金分割ができても、すぐに年金を受け取れるわけではありません。
分割した年金は、自分の年金受給が開始されてから初めて受け取ることができます。
合意分割の場合は弁護士に相談する
3号分割だけを請求する場合、年金事務所に「標準報酬改定請求書」を提出するだけで手続は済み、処理が終わると双方に標準報酬改定通知書が送付され完了します。
一方、合意分割の場合には、夫婦間での協議または裁判手続を経て按分割合を決定した上で、年金事務所等で年金の分割改定請求をする必要があります。按分割合の決定を経ないまま分割改定請求を行うことはできません。
按分割合の話し合いに時間がかかることで日常生活に支障をきたす場合もあるため、早めに弁護士に相談することをおすすめします。
弁護士は、年金分割トラブルの事例を知っているため、客観的な視点からさまざまなアドバイスをしてくれます。必要書類作成を任せることができ、また、相手と話す必要がなく話をすすめることができストレスも軽減できる。費用の相場は、相談料1回1時間5,000~8,000円、着手金は20万~30万円+報奨金が必要になると言われている。(弁護士によって大きく違うので事前に確認が必要)
熟年離婚もデメリットばかりではない
確かに、熟年離婚による年金分割は双方にとって生活が苦しくなり、経済的にはよろしくないケースが多いと思われる。
しかし、「林住期」(五木寛之著 「林住期」(幻冬舎文庫)より)という考え方もある。
インドに伝わる四住期という人生を25年ずつ4つの時期に分けるという考え方です。
0~24歳「学生期」、25~49歳「家住期」、50~74歳「林住期」、75歳~「遊行期」と名付けられています。
50歳までの25年間は、仕事でもプライベートでも、会社のために、家族のために生きる年代です。
しかし、50歳以降の「林住期」働き方は、誰のためでもなく自分のために働くべきであるという考え方であります。
49歳頃までは家族第一と考えて生きてきた人が多いでしょうが、50歳以降の生き方は自分のやりたいことを最初に考える時期ではないでしょうか。
長年にわたって我慢してきたことが限界にきているとしたら、「林住期」になってこれから自分の楽しみで人生を送りたいがそれがかなわない現状であれば、そこからの別の人生を楽しむという選択肢もあってもよいのではないでしょうか。
まとめ
熟年離婚をお考えの方であれば、年金分割のことを知っていたという方は多いと思いますが、年金分割の具体的な内容までは知らなかった方も多いのではないでしょうか。
離婚後の年金分割シュミレーションで見ていただいたとおり、年金分割によって厚生年金の半分を受け取れる権利があるといっても「国民年金+厚生年金の半分では」毎月の収入は知れている。
「年金分割できるから大丈夫」と安易に考えて熟年離婚に踏み切ると、老後の生活に困窮してしまう恐れもあります。
また、熟年離婚以後、妻は、働くにしても年収の高い会社勤めは難しく状況であり、夫も離婚により、本来もらえるはずの結婚期間中の厚生年金も半分になり、また、慰謝料の支払いや退職金も財産分与として分割されるケースもあるため、想定していた豊かな老後生活は厳しくなります。
また。こんな話もあります。
実は、ご主人が亡くなると奥様は一生涯、夫の老齢厚生年金の75%相当の遺族年金を受け取ることができます。一方離婚すると婚姻期間中の厚生年金の最大50%です。であれば離婚というワードが頭から消滅する奥様も多いとか。
長年の夫婦関係のストレスで顔も見たくないほどであり、老後は自分自身でストレスフリーに楽しく生きていきたいと経済的よりも、むしろ精神的な面を大事にしていきたいとの考え方も重要かと思われます。
熟年離婚をする前に、なぜ熟年離婚したいのかを冷静に考えた上で、ご自身の今後の人生を見直してみる必要性もありますね。
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